【走行小説】ロンドンの街角で


あれは、たしか僕がロンドンで働き出して、
少し慣れてきたころのことだった。

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仕事を終え、まだ明るい夕方、
大英博物館をちょっと行ったところにあるパブで
夕食がてら黒ビールを飲んでからフラットへ
帰ることが多かった。

その際、窓の外を見るとはなしに見ていると、
30代半ばくらい、カジュアルだが、質の良い服を着て、
顔は若い頃のイーサン・ホークのような感じの男が、
そこに路上駐車してあるクルマに乗り込み、
走り去っていく、という光景を何回か見かけた。

劇場が林立し、街全体が舞台のような
ロンドンにおいて、彼がクルマに乗り込み、
走り去っていくさまはとても洗練されていて、
劇のワンシーンのようであった。

不思議なのは、その男の乗るクルマが、
見るたびに違うクルマだったことだ。

ある時は、黒いポルシェ、ある時は
アストン・マーティン、またある時は
メルセデスの中型セダン、といった具合に。

その度に、僕は黒ビールで少々酔いが回った頭で、
いったい彼は何者なのだろう、、、と考えたものだった。

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