ポルシェはあざなえる縄の如し(小説風)

予想していたこととはいえ、驚いたな、、、

稀崎佳輔は、研究室でマグカップのコーヒーを片手に
ウオッチしている専門店のサイトを見て、衝撃を受けていた。

ポルシェ・911の中でも、マニアの間で930や
Gシリーズと言われる型を探していた。
その中で目をつけていた好みの黒い車両だ。

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値付けが相場より少し高いためか、
しばらく売れずに残っている。
店にも直接足を何度か運んだ。
程度は特に問題なさそうだ。
お店の人の感じも悪くない。

とはいえ、昨今の円安だ。
日本が鎖国をしている間は、外国人バイヤが
買い付けに来ないので大丈夫だろうが、
入国制限が緩和されれば、
その911は売れてしまうか、値上げされるだろうと
稀崎は予想していた。

今日、お店のサイトをチェックすると、
値上げされていたので、予想していたとはいえ、
稀崎は衝撃を受けた。

7%ほど、値上げされていた。

だが、これは考え方を変えればいい傾向かもしれない。
売れ残っていて、値下げされて、それでも売れない車が
世の中にはごまんとある中、
稀崎が目をつけているポルシェは、
値上げされたのだ。

また、もし値上げ前に購入していたとしたら、
そのポルシェは価値が7%上がったと理解することもできる。
投資で、年間7%のリターンを得ようとすれば
なかなかのリスクとの引き換えとなる。

それがポルシェ・911の場合、
クルマとして楽しんだ上で、7%価値が上昇しているのだ。
もちろん、事故や盗難のリスクがあるし、
整備費用や税金も必要なので、金融資産と同様に
計算することはできないが、
普通の車は年々、価値が下がっていくものが大半だ。

そんな中、趣味として楽しみながら、価値も上がっていくと
考えることができるのであれば、、、
そしてそれが1台のポルシェをウオッチしていた稀崎には、
机上の空論ではなく、実際の起こっている事象として
観察できたのであった。

「…買うか、買ってもいい頃合いなのか、、、」

稀崎は2年ほど前から中古のポルシェ・911を探している。
そうあのパンデミックで、世の中全体がおかしくなった時だ。
その時は、中古車の相場も一時的に大きく下がっていたため、
稀崎は「今がチャンスだ」と長い間、狙っていた
ポルシェ・911を手に入れようと動き始めたのだった。

だが、型や色、トランスミッションなど、
稀崎の好みにピッタリ合うクルマはなかなか現れなかった。
これは長期戦になる、と思った。

世界が正常化するにつれて、徐々に相場は上がっていく。
稀崎は、その時、彼の人生でもトップ5に入る好判断をした。
ポルシェ・911の購入資金を、株式投資したのだ。

彼はそれまで株式投資の経験はあったが、そこまでの大金を投じたことは
なかった。彼がそう踏み切れたのは、ランボルギーニを所有していた友人が、
その車両の売却費用を株式投資に投じた、と聞いたことだった。
稀崎にとって、そのレベルの額を株式投資に充てるというのは
想定してないというか、価値観を超える出来事であったが、
友人の話を聞いて、そのリミットが取り去られた。

パンデミックから回復する世の中で、クルマの相場は上がっていったが、
そのための資金を現金のままで持たず、株式に変えていた稀崎は
クルマの相場の上昇以上に、資産が上昇するという経験ができた。

今、世論は、金融緩和政策についても、反対する声が日に日に大きくなっている。
金融緩和を止めれば、住宅ローンやマイカーローンの金利が上昇する。
それによって、住宅や自動車の市場が冷えれば、
相場は下がるかもしれないが、住宅はともかく、
円安で外国のバイヤから見れば割安に見えるポルシェについては
そう単純な動きをするものではないと稀崎は見ている。

この先どうなるかは分からない。
だが、ひとつ確かなのは、ポルシェ・911という
子どもの頃からの夢の存在を手に入れるには、
時代、お金、体力的に、今は揃っており、
決断すれば、叶うということだ。

もしかしたら、ガソリンエンジン車や人間が公道で運転することはこの先、
禁止されるかもしれない。
もっと若い頃はお金が足りなかった。今は相場が上がってしまったとはいえ、
株式投資で増やした資金がある。
体力的に、現在であればノンパワステの3ペダルMT車を運転することは
可能だろう。(20年後であれば、できるかどうか分からない)。

やれやれ、、、
稀崎は、すっかり冷めてしまったコーヒーを口にする。

人生は選択の連続だ。そして、一期一会だ。
人生でいろいろな選択をしてきた稀崎だったが、
それが正解だったかどうかは分からない。

これからする決断についても、正解かどうかは分からない。

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